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概要

igakukai

特別講演進歩するがん医療?低侵襲、個別化、そして予防へ?公益財団法人がん研究会有明病院名誉院長山口俊晴がんは姑息的な治療が主体の時代が長かったが、手術による積極的な治療体系が麻酔や全身管理の進歩に支えられて急速に発展してきた。そして、比較的早期のがんが増え、患者の高齢化が進むとともに、QOLを重視した低侵襲治療・機能温存治療が求められるようになった。たとえば早期の食道癌、胃癌、大腸癌に対しては、内視鏡下治療(ESDなど)が広く試みられるようになった。また、1990年代に導入が開始された腹腔鏡下手術は、高度な技術を要するにもかかわらず、低侵襲であるばかりでなく、より精緻な手術が可能になることなどから確実に普及し、今や日常的な治療法になっている。癌治療の大きな柱の一つである放射線治療も、IMRTや陽子線・重粒子線など新しい技術が開発された。抗癌剤治療も新規薬品が開発され、患者の予後改善に大きく寄与するようになった。今までも、癌の特性や属性に応じた個別治療が行われてきたが、ゲノム情報に基づいたより精緻な個別治療も一部ではあるが実現しつつある。また、免疫チェックポイント阻害薬による、新しい視点からの免疫治療も確実に進歩しつつある。肝炎ウイルスやパピローマウイルスが、肝臓癌や子宮頸癌の発生に大きくかかわっていることが明らかになっている。また、ピロリ菌感染により慢性胃炎が形成され、それが胃癌の発生母地となっていることも明らかにされている。したがって、これらのウイルスに対するワクチン接種や、ピロリ菌の除菌により予防さえ可能になってきている。除菌するのではなく単に上下水道を普及させることで、ピロリ菌感染が減少し、胃癌も稀な疾患になりつつある現状を見ると、最近流行のAIによる診断、新規治療、新規薬剤による先端医療も重要であるが、清潔な生活環境を整えるという公衆衛生学的な対策こそが、極めて重要であることを示しているように思われる。山口俊晴先生ご略歴1973年3月京都府立医科大学卒業1973年4月京都府立医科大学研修医1977年2月秋田大学医学部文部教官助手1980年6月医学博士(秋田大学)1982年11月米国テキサス大学ヒューストン校留学(NIH奨励研究員)1995年5月京都府立医科大学助教授(第一外科)2001年10月財団法人癌研究会附属病院消化器外科部長2005年3月財団法人癌研究会有明病院消化器外科部長消化器センター長2008年11月財団法人癌研究会有明病院副院長2015年7月公益財団法人がん研究会有明病院病院長2018年7月公益財団法人がん研究会有明病院名誉院長専門分野消化器癌、特に胃癌医療経済学(医療技術評価)―8―